寒くなるこの季節、『冷え』でお悩みの方は多くいらっしゃることと思います。「体温を測ってみても特別低いわけではないけれど、何となく体が冷たい」これが『冷え』の状態です。手足が冷たい、寝る時に寒くて靴下が欠かせない、肩凝りになりやすい、お腹が冷たいなどが典型的な症状です。冷え性は女性に多いですが、冷えを自覚していない『隠れ冷え性』の人や、最近では男性にも冷え性の人が増えているようです。
冷え性とは
冷え性は血行不良が原因で起こる症状です。血行不良の原因は様々考えられますが、温かい血液が毛細血管まで行き渡らないため手先や足先に冷えとして感じます。
冷え性がなぜ女性に多いのかというと、女性ホルモンによる影響や、筋肉量が少なく脂肪が多いという身体的特徴によるもののほか、薄着や締めつけといったファッションも影響しています。女性は周期的に女性ホルモンが複雑に変化するため、自律神経がバランスを崩しやすく、特に卵胞ホルモンの分泌が盛んな月経開始から排卵期までの低温期は冷えも悪化する傾向にあります。また、男性に比べて熱を作り出す筋肉量が少ない上、脂肪には冷えやすくいったん冷えると温まりにくいという特徴があり、どうしても体が冷えやすい状況にあるのです。
男性の冷え
男性の冷えは運動不足による筋力の低下や、ストレスによる自律神経の乱れが原因になっていることが多く、不規則な生活や食生活の乱れなども重なっている場合が多いようです。
お風呂に入って冷えの改善!
冷え性改善には、身体の外側からと内側からの両方の温めが効果的です。
外側から温めるにはお風呂がおすすめです。シャワーだけで済ませてしまっては身体を温めることはできません。しかし熱すぎるお湯では交感神経を刺激し血管を収縮させるので身体の表面しか温まりません。副交感神経を刺激し、血管を広げて血行が良くなるぬるめのお湯に20~30分ゆっくり入るようにしましょう。
温め効果のある入浴剤を使うとさらにリラックス感も得られます。より温浴効果が高まる入浴剤には、肌に浸透して血行を良くする炭酸ガスの入ったものや、身体を温める生薬成分であるセンキュウ配合のものがあります。また、みかんなどの皮にも、身体を温める効果があるので代用できます。かんきつ類の皮を使う場合には、よく乾燥させてからお風呂に入れてください。
お風呂から上がったあとは、すぐに靴下を履くなど温まった身体を冷やさないようにしてくださいね。
各部位の冷えの改善!
首・手首・足首といった“首”のつく部位を温めると全身がぽかぽか温まります。この3か所は皮膚が薄く冷えやすい部分です。
首には心臓から脳へつながる大事な太い血管があります。首を温めることで、この血管を通る血液が温められ、冷えからくる肩凝りや頭痛にも効果があります。
手首・足首は太い血管から細い毛細血管へ変わるところですので、ここを温める事で手足の先まで温まった血液が行き渡ります。また足先の冷えには、保温性のある靴下やタイツを利用するのも良いでしょう。しかし引き締め効果の強い靴下やタイツは、血液の流れを悪くし、さらに冷えを悪化させる原因となるので避けましょう。
お腹をあたためて冷えの改善!
最近、手足は冷えていないけれど、内臓が冷えているという『隠れ冷え症』の人が増えています。本来37~38度あるべき内臓の温度が35度台と低くなっている状態です。内臓の血流が悪いぶん体の表面に血流が集中するので、手足は温かくそのため冷えに気がつきません。知らないうちに内臓の不調を悪化させて胃腸の調子をくずしたり、疲れやすい、免疫力が落ちるといった様々な不調が生じてきます。
『隠れ冷え症』の人は、お腹を効果的に温めましょう。カイロや湯たんぽを下腹部にあてることで副交感神経を刺激し、内臓を温める事が出来ます。ただしお腹は低温やけどを起こしやすいので十分注意をしてください。また腹巻も効果的です。最近では様々な腹巻きが出ていますので、お気に入りのデザインを選ぶのも楽しいですね。
身体の内側から冷えの改善!
内側から身体を温めるには、飲食について考える必要があります。私たちは食べ物から熱やエネルギーを産生し、体温を維持していますのでしっかり食事を摂ることはとても大切です。そして食事を効率よくエネルギーに変えるには亜鉛やセレン、鉄、マグネシウムなどのミネラルやビタミンの存在が欠かせません。
ビタミンCには鉄の吸収を良くし、毛細血管の機能を保つという働きがあり、ビタミンEには血行を良くする働きがあります。これらのミネラルやビタミンは体内で食べ物からエネルギーを産生する促進剤のような働きをします。インスタント食品やレトルト食品ばかりの食事では脂肪や塩分、糖分などは過剰になりますが、ビタミンやミネラルは不足しがちです。ミネラルやビタミンがなかなか摂れない場合にはサプリメントの活用も便利です。 また、食事制限によるダイエットでは熱のもととなる栄養素が不足してしまいますので、過度な食事制限は控えましょう。
食べ物で冷えの改善!
食べ物には身体を冷やすものと温めるものがあります。冷え性の人は冷たいものはなるべく摂らないようにすることと同時に、身体の内部から温める作用のある食材を摂ることも効果的です。
寒い季節に旬をむかえるものや、寒い地方で採れるものには身体を温める効果のあるものが多く、代表的なものにショウガやにんにく、ねぎ、ごぼうなどがあります。ショウガの辛み成分ジンゲロール・ショウガオール・ジンゲロンには血行を促進する作用や体を温める働きがあります。ほうじ茶や紅茶にも身体を温める効果がありますので、すりおろしたショウガを加えて飲むと効果倍増です。手軽なインスタントタイプのショウガ湯もおすすめです。
またトウガラシ成分のカプサイシンには血流を良くして体温を上昇させる働きがあります。高い発汗作用もありますので、この季節にはキムチやチゲ鍋を食べると良いですね。
トマトやきゅうりなどの夏野菜や生野菜は水分が多く身体を冷やす作用がありますので、炒めたり蒸すなど熱を加えて食べると良いでしょう。またタバコは急激に血管を収縮させ血流を悪くしますので冷え性の人には大敵です。
漢方薬について
冷えには漢方薬がとても向いています。その成分である生薬の一部をご紹介しましょう。
血流を良くし、身体を温める作用の大きいショウガは、漢方では生姜(しょうきょう)と呼び、代謝を上げる効果もあります。香辛料として用いられる「シナモン」は桂皮(けいひ)と呼び、桂の樹皮で独特の香りと甘辛い味を持ちます。身体の冷えを取り除き血液の循環を良くする効果があります。また胃腸の働きを助ける作用もありますので、食欲不振や胃のもたれなどにも効果があります。香辛料の「クローブ」も生薬では丁子(ちょうじ)といい、身体を温め血行を促進する効果と胃液の分泌を高め消化機能を良くする働きもあります。地黄(じおう)はアカヤジオウという植物の根です。血行促進作用や血行改善の他、ホルモン分泌を整える作用があります。芍薬(しゃくやく)は美しく大きな花を咲かせる芍薬の根です。芍薬には血流を促進する作用があるため、生理痛や月経不順等の婦人科系の疾患に用いられることの多い生薬です。痛みを和らげたり、緊張を緩和する効果もあるので、肩凝りなどにも用いられます。附子(ぶし)はトリカブトの根です。水分の代謝を高め、水分の偏りをなくすことで手足の冷えを改善します。トリカブトというと猛毒のイメージがありますが、古くから漢方薬として広く使われており、薬には適正な量が入っていますので安心して使用できます。
冷えのタイプ別漢方の選び方
この生薬を様々な組合せで配合している薬が漢方薬です。同じ冷えでも体質や症状によって選ぶ薬が異なります。
顔色は比較的良く、がっちりして、声に力があり、脈や腹の緊張がよいタイプの人は血液がうっ滯するため、手足に血流が巡らず冷えてきますので、血の巡りを良くする桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)や温経湯(うんけいとう)、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)を選びます。顔色不良で、痩せ形で、力乏しく、いつも横になっていたいタイプの人はエネルギー不足によって熱の産生が低下して体全体が冷えていますので、熱や血を作る働きを補い身体を温める八味地黄丸(はちみじおうがん)や人参湯(にんじんとう)を選ぶと良いでしょう。
むくみなど身体の水分量が多い場合には、水分の多い部分に冷えが出ますので当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)や桂枝加苓朮附湯(けいしかりょうじゅつぶとう)で水分代謝を良くします。
漢方薬は食前や食間の服用で吸収が良くなり、より効果が期待できます。冷えで飲む場合には粉薬はそのまま飲むよりも、お湯で溶かして香りとともにゆっくり飲むと、ぽかぽかと温まってきます。